笑う人形、泣く人形、怒る人形、眠る人形

タイトルが真2ですが一番好きなのは真1です。

 

あらゆるRPGの主人公の名前を「CB」にするのはメガテンの攻略本の影響です。成沢大輔の書いていた、真女神転生のすべて。私は子供のころ、攻略本を作る人になりたかったくらいゲームの攻略本が好きでした。とにかく読むのが好きでした。友達の家に行き、やっていないゲームの攻略本を読みまくり、毎回思うのは「やっぱりメガテンの攻略本が一番面白いなあ」でした。

 

真・女神転生のすべて」は父親の部屋にあって(メガテンはもともと父が遊んでいた)、表紙・裏表紙には美しい妖精と不気味な悪魔が描かれていました。幼心に気味が悪く、正直読んだら呪われそうで戸惑っていたのですが、攻略本を読みたいという欲……というかほとんど好奇心で表紙をめくったのが最初でした。表紙の裏にあったシトリーの下ネタ4コマ漫画に面食らったのを覚えています。

成沢大輔の文章は、ゲームの雰囲気に合わせていただけかもしれないけど、断定調でさっぱり短く簡潔な、大人がわざと書く味気ない文章でした。子供には新鮮でした。のちに中学生となって安部公房を読んだとき、一瞬成沢大輔が浮かびました。熱心な読者からは否定されそうですが、私の中では両者の文体は結構似ています。

 

金剛神界からヒロインがCBやワルオヨシオを逃がすイベントがありますね。攻略本では「ヒロインは、最後の力できみたちを転送する。行先は、分からない」というような文章が、トラポートを唱えるヒロインの図に添えられていました。しびれました。「行先は、分からない」のところ、なんてかっこいいんだろうと、小学生の私はどきどきした。行先も決められない(決めたのかな? 謎ですよね)危機的状況のなか、決死の思いでヒロインは魔法を唱えたんだなとうかがえるこの一文。次のページで「ああ金剛神界なんだな」と攻略本的にはわかってしまうんですけど、そういうことじゃなくて、なんていうか、ドラマなんです。メガテンはストーリーなんてあってないようなものなのに、成沢大輔の筆によってドラマチックに描かれているんです。このあたりのことを、以前の私がnoteで似たように書いていました。

 

 

成沢大輔の攻略本について他の人がどのように思っているか知らないが、まるでメガテンにストーリーがちゃんとあるかのように書くなあと私は思う。
別にストーリーが無いわけでもないが、やはり基本はどうせ全員殺すからなのか、いくつかのシーンを除いて全然ストーリーが印象に残らない稀有なゲームが、成沢大輔の手によってそんな弱点を取り去られドラマチックに仕上げられている気がする。実際はイベントシーンなどはほぼ流し見し、破魔矢やオートバトルを駆使して戦闘を省略、プレイ時間のほとんどを悪魔合体に費やしているのに、まるで一大ドラマを見ているような気になるのだ。
東京にICBMが落ちるくだり、ヒロインが決死のトラポートで金剛神界へヒーローらを飛ばすあのイベントの際、プレイ画面のキャプチャ画像下の解説文で

「ヒロインは、最後の力できみたちを転送する。行き先は、わからない」

とやたら引きを作る書き方をしていたことは忘れられない。この「行き先は、分からない」というジャンプの次回予告コメントみたいな締め方には痺れた。
メガテンは、殺人事件が起きるとか謎の美少女(アリス)が雇う執事に仲間が殺されたりとか、東京にICBMが落ちる、さらに大洪水になる、飼ってた犬が悪魔になって喋る、というように、起こるイベントのすべてが結構不気味で話題性のあるものばかりなのだが、逆にすべてそんな感じであるせいか淡々と物事が進み、作品全体としてはむしろ落ち着いた印象だ。なので金剛神界に飛ばされる際もヒロインは決死の覚悟なんだろうがこちらは気持ちが盛り上がっていないので、そんなことより月齢ばかり気にしている。それを、成沢大輔のカッコいい解説という素晴らしい合いの手のおかげで、ようやく「なんか今すげえことが起きたみたいだな(来たやつ倒してただけだけど)」と認識することが出来、結果的にストーリーを感じるのだ。成沢大輔の、あのような目に留まる解説がなければ、私はあのイベントも印象に残らない数あるイベントのひとつとしてしか記憶しなかったはずだ。そもそもレジスタンスについての説明が緩すぎるせいでいまいち感情移入出来なかったヒロインにはそんな覚悟があったのかと思える。

 

ほんとに同じようなことを言っていますね。メガテンの話をするとき、私は必ず成沢大輔の話をするので、何度かいても同じような内容になってしまうんですね。

 

「……本当にこれでいいのか?」にぎくりとした読者も、多かったのではないでしょうか。あの攻略本においては。LCルートの結末を解説しておきながら「本当にこれでいいのか」と最後に問いかけてくる仕様、ここまで導いたのになんだよと思いながらも「もしかしてほかにも道があるの?」と思わせる一文でした。そう思うのは初見だけで、ほとんどのメガテニストは「Nもある」ことを分かっているし、分かってからは「はいはい」と思うような一文ですけれど、全く知らなかった小学生の私には「ええっ」と驚く一文でした。じゃあその下に書かれているほうのルートが正解なのかとCルートの結末を読んでも、やっぱり「本当にこれでいいのか?」と書かれている。どういうことなんだろう、ほかに何があるんだろう、白か黒かしかない子供の私は、世の中にまだグレーがあるなんてことを知らなくて、中庸という言葉を知る由もなくて、初めて世間の、大人の感覚に触れた気がしました。まあ次のページにNルートが書いてあるんですが。

 

メガテンの攻略本は文字数が少ないところが悔やまれる点でした。聖剣とか、FFとか、もっと文字があった気がします。もっと細かいところを成沢大輔が掘り下げていてくれたら、私はもっともっと好きになっていたと思います。ページがなかっただけで、成沢大輔はそうしたかったかもしれませんが、もっとメガテンのことを書く成沢大輔の文章が読みたかった。攻略本、実家に帰るたびに読み直すんですが、もってきてもいいなと思います。ダビスタかなにかの攻略本も成沢大輔が書いているんでしたっけ? 買えればいいなと思うんだけど、なかなかない……。